BUSHIから学ぶプロレスラーの「強さ」

エディオンアリーナ大阪で開催された『POWER STRUGGLE ~SUPER Jr. TAG LEAGUE 2019~』でのウィル・オスプレイとBUSHIのタイトルマッチ。結果はオスプレイの勝利になりましたが、私はそこにBUSHIというプロレスラーの強さを見ました。こんなに集中して試合を見たことは、ここ最近あまりなかったかも知れません。

なぜなら、そのタイトルマッチには「悲しみ」や「プライド」が横たわっていたからです。

悲しみをマスクの下に

タイトルマッチの少し前に書かれた新日本プロレススマホサイトのBUSHIの日記。タイトルは

『火曜定休日』

昨年父親を亡くし、そして今年母親を亡くすという現実を、彼は静かな語り口で日記にしていました。スマホ会員限定ではありますが公開記事であり、そしてプライベートなことなのでそこに全てが書かれてなかったとしても、母親への深い感謝が伝わる日記でした。

美容師である母親。

息子であるBUSHIにあまり心配をかけぬよう入退院を隠していた母親。

BUSHIは実家に帰省するたび母親にしてもらったシャンプーに、「もしかしたらこれが最後のシャンプー?」と思い、母親からは顔が見えないタオルの下で泣いていました。BUSHIのその様子は、マスクマンとしてファンに表情を見せないプロレスラーとしての彼と重なる部分があり、胸を打ちました。

このような背景を抱えながら、オスプレイ戦へと向かうBUSHIの普段と変わらぬクールな印象は、「プロだから」という言葉では説明できない雰囲気がありました。

既定路線を超えて

タイトルマッチ前のロスインゴブレナブレス、いや新日本プロレスの状況は、まさに「既定路線」とも言うべき流れの中にいました。

オカダ・カズチカとSANADA、飯伏幸太とEVIL、タイチと内藤哲也。

これらの試合が全て来年開催される東京ドームへの布石のように見え、そして高橋ヒロムの復帰への期待も相まって、オスプレイとBUSHIのタイトルマッチはヒロム復帰へのイントロダクションのような趣さえありました。

しかし、オスプレイとBUSHIの戦いは、イントロダクションではなく、BUSHIというレスラーのプロレスを見せつける好勝負になりました。
スピーディーなオスプレイに対して間を取ったスタイルのBUSHIは、時折テクニカルな攻撃も織り交ぜ、つねに主導権を譲らなかったように見えます。一発一発の「映え」はオスプレイに軍配があがりますが、終始試合をコントロールしていたのはBUSHIでしたね。

プロレスとは時に残酷で、温情などが通じそうで通じない世界です。勿論BUSHI自身もそのようなものを望んではいなかったでしょうが、どのような状況であれ己のプロレスを見せる、というプライドがそこにはありました。

プロレスラーの「強さ」とは

今や世界有数のプロレス団体となった新日本プロレスには、世界中から優秀なレスラーが集まります。熾烈な団体内の競争の中、ライバルであったKUSHIDAはアメリカに行き、最近はやや存在感の薄かったBUSHI。パートナー不在でジュニアタッグリーグも不参加の状態で、「なぜ君がオスプレイと?」と思ったファンも少なくはないでしょう。私もその一人でした。

しかし、プロレスとは不思議なもので、知らぬ間に感情移入してしまうものです。

もし自分がBUSHIの立場なら、大きな悲しみを胸にしまい平静を保てるのだろうか?
タイトルマッチに集まる批判的な目線を黙らせることが出来るだろうか?
負けたら噛ませ犬と呼ばれてしまわないか?

と、反芻しながら試合を観ていました。

BUSHIは、批判も悲しみもマスクの下のクールな表情に押し込み、彼自身のプロレスでオスプレイと真っ向勝負をしました。結果云々、私はBUSHIに「プロレスラーとしての強さ」を見せられました。

高橋ヒロムの復帰でかき消された感のあるオスプレイとBUSHIのタイトルマッチでしたが、私にとって間違いなくあの興行の主役はBUSHIでしたね。