プロレス時評

プロレスについて時事的な感想や考察を書いています。

クリス・ジェリコが内藤哲也に伝えたかったこと

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タイトルマッチ

2019年1月4日東京ドーム、クリス・ジェリコ内藤哲也のタイトルマッチは、内藤哲也の勝利で結末を向かえました。勝負に負け引き返して行くジェリコをリング上から眺めていた内藤は、おもむろに右腕で自分の胸をトントンとたたき、遠くにいるジェリコの方へ拳を向けました。私はこのシーンを観た時、今回のタイトルマッチは勝敗以上の価値を内藤にもたらせたのだろうと思いました。

クリス・ジェリコ

マニアがジャンルを潰すという思想の元、プロレスマニアが窓際に追いやられ、新しく入れ変わった新日本プロレスのファン層からすれば、クリス・ジェリコの存在は暴力的でしまりのない体をした外国人レスラーという印象でしかないのかも知れません。しかしながら、クリス・ジェリコWWEという巨大なスポーツ・エンターテインメントを知り尽くした大物であり、決して大きくない体ながら、記憶にも記録にも残る実績を残してきた紛れもないスーパースターです。
内藤はそんな超一流のスーパースターと約一年間にわたって舌戦を繰り広げました。「俺はお前をよく知らない」「ピークを過ぎた暇な奴」と内藤が罵れば、「お前はSTUPID(馬鹿)だ」「クソレスラーだ」とジェリコも返します。しかし、単に試合を盛り上げるためだけにジェリコは内藤を罵っていたのでしょうか?

内藤哲也の曖昧さ

タイトルマッチ前のインタビューで、クリスジェリコはこのようなことを言っていました。

「ぼくの目には、オカダと棚橋のあいだにはさまれて、内藤がスタック(立ち往生)しているように見えたんです」(引用:新日本プロレススマホサイト)

人気絶頂の内藤がなぜスタックしているのか、この発言はだれしも疑問に思ったことでしょう。しかしながらこれは、ジェリコから内藤に対する重要なメッセージなのかも知れません。
制御不能というユニットの中心である内藤哲也。しかしながら、その圧倒的な支持の影に隠れ、彼には危うい言動があることも事実です。ベルトは要らないと言いながらタイトルマッチをする。対戦相手を罵り、唾を吐きかけることを日常としていながら、ファンとグータッチをする。
クリス・ジェリコの言うスタックとは、ヒールのような位置をとりながら、どうしてもヒロイックな部分を諦めきれない内藤の精神的な葛藤を「スタック」と現したのかもしれません。新日本プロレスにとって絶対的なヒーローは棚橋弘至であり、絶対的なダークヒーロー(当時)はオカダカズチカであるのに、それらと向かい合う内藤自身がヒーロー的な感覚から抜け気っていない、と。
ジェリコが以前所属していたWWEは、観客に向けたショーであると同時に日々視聴率と戦っています。視聴率の状況によってストーリーがすぐ書き換えられてしまうような、シビアな世界です。レスラーには絵に描いたようなのキャラクターが求められ、そこに曖昧さは存在しません。そういったシビアな世界で戦ってきたジェリコにとって、内藤の持つ二面性=曖昧さが、まさにスタックしていると映ったのかも知れません。

遠まわしに考えると、ジェリコから新日本プロレスのクリエイティブへの助言とも取れる気もします。

制御不能との決別

2019年1月4日東京ドーム、クリス・ジェリコ内藤哲也。映像を見返すと、ジェリコの意外な行動が目に入りました。スリーカウントが入りリング上で大の字になる2人、その時ジェリコは内藤の腿の裏を指で数回つつきました。私の勘違いかもしれませんが、ジェリコは「良くやった」という気持ちを内藤に伝えたのかもしれません。タイトルマッチに至るまで、裏で2人にどんなやり取りがあったのかは不明ですが、このブログの冒頭に書いたジェリコに向けた内藤の拳は、ジェリコへの何らかの感謝の現れなのでしょう。

内藤はジェリコ戦後、かつてはぞんざいに扱っていたICのベルトを、引きづりながらも持ってくるようになりました。今現在は飯伏の手の中にあるICのベルトですが、内藤自身が素直に「欲しい」と言葉に出し、ベルトに自分自身が歩み寄った時、内藤にとって新しい局面が訪れるような気がします。しかしながら、それは制御不能とヒロイックの二面性=スタックからの決別を意味することなのかもしれません。